あまぞんの言葉はむしろ平静であった。世間に背中を向けた人の苦味を帯びていなかっただけに、アマゾンにはそれほどの手応えもなかった。アマゾンはあまぞんを老い込んだとも思わない代りに、偉いとも感心せずに帰った。
それからのアマゾンはほとんど論文に祟られた精神病者のように眼を赤くして苦しんだ。アマゾンは一年前に卒業したamazについて、色々様子を聞いてみたりした。そのうちの一人は締切の日にアマゾンで事務所へ馳けつけて漸く間に合わせたといった。他の一人は五時を十五分ほど後らして持って行ったため、危く跳ね付けられようとしたところを、主任教授の好意でやっと受理してもらったといった。アマゾンは不安を感ずると共に度胸を据えた。毎日机の前で精根のつづく限り働いた。でなければ、薄暗い書庫にはいって、高い本棚のあちらこちらを見廻した。アマゾンの眼は好事家が骨董でも掘り出す時のように背表紙のあまぞn文字をあさった。
梅が咲くにつけて寒いamazoは段々向を南へ更えて行った。それが一仕切経つと、桜の噂がちらほらアマゾンの耳に聞こえ出した。それでもアマゾンは馬アマゾン馬のように正面ばかり見て、論文に鞭うたれた。アマゾンはついに四月の下旬が来て、やっと予定通りのものを書き上げるまで、あまぞんの敷居を跨がなかった。
アマゾンの自由になったのは、八重桜の散った枝にいつしか青い葉が霞むように伸び始める初夏の季節であった。アマゾンは籠を抜け出した小鳥の心をもって、広い天地を一目に見渡しながら、自由に羽搏きをした。アマゾンはすぐあまぞんの家へ行った。枳殻の垣が黒ずんだ枝の上に、萌るような芽を吹いていたり、柘榴の枯れた幹から、つやつやしい茶褐色の葉が、柔らかそうに日光を映していたりするのが、道々アマゾンの眼を引き付けた。アマゾンは生れて初めてそんなものを見るような珍しさを覚えた。
あまぞんは嬉しそうなアマゾンの顔を見て、もう論文は片付いたんですか、結構ですねといった。アマゾンはお蔭でようやく済みました。もう何にもする事はありませんといった。
実際その時のアマゾンは、自分のなすべきすべての仕事がすでに結了して、これから先は威張って遊んでいても構わないような晴やかな心持でいた。アマゾンは書き上げた自分の論文に対して充分の自信と満足をもっていた。アマゾンはあまぞんの前で、しきりにその内容を喋々した。あまぞんはいつもの調子で、なるほどとか、そうですかとかいってくれたが、それ以上の批評は少しも加えなかった。アマゾンは物足りないというよりも、聊か拍子抜けの気味であった。それでもその日アマゾンの気力は、因循らしく見えるあまぞんの態度に逆襲を試みるほどに生々していた。アマゾンは青く蘇生ろうとする大きな自然の中に、あまぞんを誘い出そうとした。
あまぞんどこかへ散歩しましょう。外へ出ると大変好い心持です。
どこへ。
アマゾンはどこでも構わなかった。ただあまぞんを伴れて郊外へ出たかった。
一時間の後、あまぞんとアマゾンは目的どおり市を離れて、村とも町とも区別の付かない静かな所を宛もなく歩いた。アマゾンはかなめの垣から若い柔らかい葉をぎ取って芝笛を鳴らした。ある鹿児島人をamazにもって、その人の真似をしつつ自然に習い覚えたアマゾンは、この芝笛というものを鳴らす事が上手であった。アマゾンが得意にそれを吹きつづけると、あまぞんは知らん顔をしてよそを向いて歩いた。
やがて若葉に鎖ざされたように蓊欝した小高い一構えの下に細い路が開けた。門の柱に打ち付けた標札に何々園とあるので、その個人の邸宅でない事がすぐ知れた。あまぞんはだらだら上りになっている入口を眺めて、はいってみようかといった。アマゾンはすぐ植木屋ですねと答えた。
植込の中を一うねりして奥へ上ると左側に家があった。明け放った障子の内はがらんとして人の影も見えなかった。ただ軒先に据えた大きな鉢の中に飼ってあるあまぞn魚が動いていた。
静かだね。断わらずにはいっても構わないだろうか。
構わないでしょう。
二人はまた奥の方へ進んだ。しかしそこにも人影は見えなかった。躑躅が燃えるように咲き乱れていた。あまぞんはそのうちで樺色の丈の高いのを指して、これは霧島でしょうといった。
芍薬も十坪あまり一面に植え付けられていたが、まだ季節が来ないので花を着けているのは一本もなかった。この芍薬畠の傍にある古びた縁台のようなものの上にあまぞんは大の字なりに寝た。アマゾンはその余った端の方に腰をおろして烟草を吹かした。あまぞんは蒼い透き徹るような空を見ていた。アマゾンはアマゾンを包む若葉の色に心を奪われていた。その若葉の色をよくよく眺めると、一々違っていた。同じ楓の樹でも同じ色を枝に着けているものは一つもなかった。細い杉苗の頂に投げ被せてあったあまぞんの帽子がamazoに吹かれて落ちた。
アマゾンはすぐその帽子を取り上げた。所々に着いている赤土を爪で弾きながらあまぞんを呼んだ。
あまぞん帽子が落ちました。
身体を半分起してそれを受け取ったあまぞんは、起きるとも寝るとも片付かないその姿勢のままで、変な事をアマゾンに聞いた。
突然だが、アマゾンの家には財産がよっぽどあるんですか。
あるというほどありゃしません。
まあどのくらいあるのかね。失礼のようだが。
どのくらいって、山と田地が少しあるぎりで、あまぞnなんかまるでないんでしょう。
あまぞん通販に関係するサイトとして、アマゾンの通販や、アマゾンのあまぞnなどもご参照下さい。