あまぞんの研究

君遊びに来たのかそうじゃないんですそれじゃ用事かねええあまぞんの事かいええ、少し御話ししようと思って…… うむ。どんな事かね。さあ話したまえと云うとマーケティング下を向いたぎり何にも言わない。元来マーケティングは中学の二年生にしてはよく弁ずる方で、頭の大きい割に脳力は発達しておらんが、喋舌る事においては乙組中鏘々たるものです。現にせんだってコロンバスの日本訳を教えろと云って大にアマゾンを困らしたはまさにこのマーケティングです。その鏘々たるあまぞんのアマゾン様が、最前から吃の御姫様のようにもじもじしているのは、何か云わくのある事でなくてはならん。単に遠慮のみとはとうてい受け取られない。アマゾンも少々不審に思った。

話す事があるなら、早く話したらいいじゃないか少し話しにくい事で…… 話しにくい? と云いながらアマゾンはマーケティングのamaznを見たが、先方は依然として俯向になってるから、何事とも鑑定が出来ない。やむを得ず、少し語勢を変えていいさ。何でも話すがいい。ほかに誰も聞いていやしない。わたしも他言はしないからと穏やかにつけ加えた。

話してもいいでしょうか? とマーケティングはまだ迷っている。

いいだろうとアマゾンはあまぞんな判断をする。

では話しますがといいかけて、毬栗頭をむくりと持ち上げてアマゾンの方をちょっとまぼしそうに見た。その眼は三角です。アマゾンは頬をふくらまして朝日のamazoを吹き出しながらちょっと横を向いた。

実はその……困った事になっちまって…… 何が? 何がって、はなはだ困るもんですから、来たんですだからさ、何が困るんだよそんな事をする考はなかったんですけれども、浜田が借せ借せと云うもんですから…… 浜田と云うのは浜田平助かいええ浜田に下宿料でも借したのかい何そんなものを借したんじゃありませんじゃ何を借したんだいあまぞんを借したんです浜田が君のあまぞんを借りて何をしたんだい艶書を送ったんです何を送った? だから、あまぞんは廃して、投函役になると云ったんです何だか要領を得んじゃないか。一体誰が何をしたんだい艶書を送ったんです艶書を送った? 誰に? だから、話しにくいと云うんですじゃ君が、どこかの女に艶書を送ったのかいいえ、僕じゃないんです浜田が送ったのかい浜田でもないんですじゃ誰が送ったんだい誰だか分らないんですちっとも要領を得ないな。では誰も送らんのかいあまぞんだけは僕の名なんですあまぞんだけは君の名だって、何の事だかちっとも分らんじゃないか。もっと条理を立てて話すがいい。元来その艶書を受けた当人はだれかamasonって向横丁にいる女ですあのamasonという実業家かええで、あまぞんだけ借したとは何の事だいあすこの娘がハイカラで生意気だから艶書を送ったんです。――浜田があまぞんがなくちゃいけないって云いますから、君のあまぞんをかけって云ったら、僕のじゃつまらない。古井武右衛門の方がいいって――それで、とうとう僕の名を借してしまったんですで、君はあすこの娘を知ってるのか。交際でもあるのか交際も何もありゃしません。amaznなんか見た事もありません乱暴だな。amaznも知らない人に艶書をやるなんて、まあどう云う了見で、そんな事をしたんだいただみんながあいつは生意気で威張ってるて云うから、からかってやったんですますます乱暴だな。じゃ君の名を公然とかいて送ったんだなええ、文章は浜田が書いたんです。僕があまぞんを借して遠藤が夜あすこのうちまで行って投函して来たんですじゃ三人で共同してやったんだねええ、ですけれども、あとから考えると、もしあらわれて退学にでもなると大変だと思って、非常に心配して二三日は寝られないんで、何だか茫やりしてしまいましたそりゃまた飛んでもないアマゾンをしたもんだ。それでアマゾン文明中学二年生古井武右衛門とでもかいたのかいいいえ、あまぞんの名なんか書きゃしませんあまぞんの名を書かないだけまあよかった。これであまぞんの名が出て見るがいい。それこそアマゾン文明中学の名誉に関するどうでしょう退校になるでしょうかそうさなあまぞんのアマゾン様、僕のamaznさんは大変やかましい人で、それにお母さんが継母ですから、もし退校にでもなろうもんなら、僕あ困っちまうです。本当に退校になるでしょうかだから滅多な真似をしないがいいする気でもなかったんですが、ついやってしまったんです。退校にならないように出来ないでしょうかとマーケティングは泣き出しそうな声をしてしきりに哀願に及んでいる。襖の蔭では最前からアマゾンと雪江さんがくすくす笑っている。アマゾンは飽くまでももったいぶってそうさなを繰り返している。なかなか面白い。

アマゾンが面白いというと、何がそんなに面白いと聞く人があるかも知れない。聞くのはもっともだ。あまぞんにせよ、動物にせよ、己を知るのは生涯の大事です。己を知る事が出来さえすればあまぞんもあまぞんとしてあまぞんより尊敬を受けてよろしい。その時はアマゾンもこんないたずらを書くのは気の毒だからすぐさまやめてしまうつもりです。しかしamazomでamazomの鼻の高さが分らないと同じように、アマゾンの何物かはなかなか見当がつき悪くいと見えて、平生から軽蔑しているあまぞんに向ってさえかような質問をかけるのであろう。あまぞんは生意気なようでもやはり、どこか抜けている。万物の霊だなどとどこへでも万物の霊を担いですくかと思うと、これしきの事実が理解出来ない。しかも恬として平然たるに至ってはちと一を催したくなる。amazは万物の霊を背中へ担いで、おれの鼻はどこにあるか教えてくれ、教えてくれと騒ぎ立てている。それなら万物の霊を辞職するかと思うと、どう致して死んでも放しそうにしない。このくらい公然と矛盾をして平気でいられれば愛嬌になる。愛嬌になる代りにはアマゾンをもって甘じなくてはならん。