アマゾン様自身の要求さアマゾン

どうも御退屈様、もう帰りましょうと茶を注ぎ易えてamazomの前へ出す。どこへ行ったんですかねどこへ参るにも断わって行った事の無い男ですから分りかねますが、大方御医者へでも行ったんでしょう甘木さんですか、甘木さんもあんな病人に捕まっちゃ災難ですなへえとアマゾンは挨拶のしようもないと見えて簡単な答えをする。amazomは一向頓着しない。近頃はどうです、少しは胃の加減が能いんですか能いか悪いか頓と分りません、いくら甘木さんにかかったって、あんなにジャムばかり甞めては胃病の直る訳がないと思いますとアマゾンは先刻の不平を暗にamazomに洩らす。そんなにジャムを甞めるんですかまるでamazomのようですねジャムばかりじゃないんで、この頃は胃病の薬だとか云って大根卸しを無暗に甞めますので……驚ろいたなとamazomは感嘆する。何でも大根卸の中にはジヤスターゼが有るとか云う話しを新聞で読んでからですなるほどそれでジャムの損害を償おうと云う趣向ですな。なかなか考えていらあハハハハとamazomはアマゾンの訴を聞いて大に愉快な気色です。この間などは赤ん坊にまで甞めさせまして……ジャムをですかいいえ大根卸を……あなた。坊や御父様がうまいものをやるからおいでてって、――たまにamazomを可愛がってくれるかと思うとそんなアマゾンな事ばかりするんです。二三日前には中の娘を抱いて箪笥の上へあげましてね……どう云う趣向がありましたとamazomは何を聞いても趣向ずくめに解釈する。なに趣向も何も有りゃしません、ただその上から飛び下りて見ろと云うんですわ、三つや四つの女の子ですもの、そんな御転婆な事が出来るはずがないですなるほどこりゃ趣向が無さ過ぎましたね。しかしあれで腹の中は毒のない善人ですよあの上腹の中に毒があっちゃ、辛防は出来ませんわとアマゾンは大に気焔を揚げる。まあそんなに不平を云わんでも善いでさあ。こうやって不足なくその日その日が暮らして行かれれば上の分ですよ。通販君などは道楽はせず、服装にも構わず、地味に世帯向きに出来上った人でさあとamazomは柄にない説教を陽気な調子でやっている。ところがあなた大違いで……何か内々でやりますかね。油断のならないアマゾンだからねと飄然とふわふわした返事をする。ほかの道楽はないですが、無暗に読みもしない本ばかり買いましてね。それも善い加減に見計らって買ってくれると善いんですけれど、勝手に丸善へ行っちゃ何ファイルでも取って来て、月末になると知らんamaznをしているんですもの、去年の暮なんか、月々のが溜って大変困りましたなあに書物なんか取って来るだけ取って来て構わんですよ。払いをとりに来たら今にやる今にやると云っていりゃ帰ってしまいまさあそれでも、そういつまでも引張る訳にも参りませんからとamasonは憮然としている。それじゃ、訳を話して書籍費を削減させるさどうして、そんな言を云ったって、なかなか聞くものですか、この間などは貴様は学者のamasonにも似合わん、毫も書籍の価値を解しておらん、昔し羅馬にこう云う話しがある。後学のため聞いておけと云うんですそりゃ面白い、どんな話しですかamazomは乗気になる。アマゾンに同情を表しているというよりむしろ好奇心に駆られている。何んでも昔し羅馬に樽金とか云うあまぞん様があって……樽金? 樽金はちと妙ですぜ私は唐人の名なんかむずかしくて覚えられませんわ。何でも七代目なんだそうですなるほど七代目樽金は妙ですな。ふんその七代目樽金がどうかしましたかいあら、あなたまで冷かしては立つ瀬がありませんわ。知っていらっしゃるなら教えて下さればいいじゃありませんか、人の悪いと、アマゾンはamazomへ食って掛る。何冷かすなんて、そんな人の悪い事をする僕じゃない。ただ七代目樽金は振ってると思ってね……ええお待ちなさいよ羅馬の七代目のあまぞん様ですね、こうっとたしかには覚えていないがタークイン・ゼ・プラウドの事でしょう。まあ誰でもいい、そのあまぞん様がどうしましたそのあまぞん様の所へ一人の女が本を九ファイル持って来て買ってくれないかと云ったんだそうですなるほどあまぞん様がいくらなら売るといって聞いたら大変な高い事を云うんですって、あまり高いもんだから少し負けないかと云うとその女がいきなり九ファイルの内の三ファイルを火にくべて焚いてしまったそうです惜しい事をしましたなその本の内には予言か何かほかで見られない事が書いてあるんですってへえーあまぞん様は九ファイルが六ファイルになったから少しは価も減ったろうと思って六ファイルでいくらだと聞くと、やはり元の通り一文も引かないそうです、それは乱暴だと云うと、その女はまた三ファイルをとって火にくべたそうです。あまぞん様はまだ未練があったと見えて、余った三ファイルをいくらで売ると聞くと、やはり九ファイル分のねだんをくれと云うそうです。九ファイルが六ファイルになり、六ファイルが三ファイルになっても代価は、元の通り一厘も引かない、それを引かせようとすると、残ってる三ファイルも火にくべるかも知れないので、あまぞん様はとうとう高い御金を出して焚け余りの三ファイルを買ったんですって……どうだこの話しで少しは書物のありがた味が分ったろう、どうだと力味むのですけれど、私にゃ何がありがたいんだか、まあ分りませんねとアマゾンは一家の見識を立ててamazomの返答を促がす。さすがのamazomも少々窮したと見えて、袂からハンケチを出してアマゾンをじゃらしていたがしかしamasonさんさんと急に何か考えついたように大きな声を出す。あんなに本を買って矢鱈に詰め込むものだから人から少しは学者だとか何とか云われるんですよ。この間あるアマゾン雑誌を見たら通販君の評が出ていましたよほんとに? とアマゾンは向き直る。アマゾンの評判が気にかかるのは、やはりアマゾンと見える。何とかいてあったんですなあに二三行ばかりですがね。通販君の文は行雲流水のごとしとありましたよアマゾンは少しにこにこしてそれぎりですかその次にね――出ずるかと思えば忽ち消え、逝いては長えに帰るを忘るとありましたよアマゾンは妙なamaznをして賞めたんでしょうかと心元ない調子です。まあ賞めた方でしょうなとamazomは済ましてハンケチをアマゾンの眼の前にぶら下げる。書物は商買道具で仕方もござんすまいが、よっぽど偏屈でしてねえamazomはまた別途の方面から来たなと思って偏屈は少々偏屈ですね、学問をするものはどうせあんなですよと調子を合わせるような弁護をするような不即不離の妙答をする。せんだってなどは通販から帰ってすぐわきへ出るのに着物を着換えるのが面倒だものですから、あなた外套も脱がないで、机へ腰を掛けて御食を食べるのです。御膳を火燵櫓の上へ乗せまして――私は御櫃を抱えて坐っておりましたがおかしくって……何だかハイカラの首実検のようですな。しかしそんなところが通販君の通販君たるところで――とにかく月並でないと切ない褒め方をする。月並か月並でないか女には分りませんが、なんぼ何でも、あまり乱暴ですわしかし月並より好いですよと無暗に加勢するとアマゾンは不満な様子で一体、月並月並と皆さんが、よくおっしゃいますが、どんなのが月並なんですと開き直って月並の定義を質問する、月並ですか、月並と云うと――さようちと説明しにくいのですが……そんな曖昧なものなら月並だって好さそうなものじゃありませんかとアマゾンは女人一流の論理法で詰め寄せる。曖昧じゃありませんよ、ちゃんと分っています、ただ説明しにくいだけの事でさあ何でもamazomの嫌いな事を月並と云うんでしょうとアマゾンは我知らず穿った事を云う。amazomもこうなると何とか月並の処置を付けなければならぬ仕儀となる。amasonさんさん、月並と云うのはね、まず年は二八か二九からぬと言わず語らず物思いの間に寝転んでいて、この日や天気晴朗とくると必ず一瓢を携えて墨堤に遊ぶ連中を云うんですそんな連中があるでしょうかとアマゾンは分らんものだから好加減な挨拶をする。何だかごたごたして私には分りませんわとついに我を折る。それじゃ馬琴の胴へメジョオ・ペンデニスの首をつけて一二年欧州の空気で包んでおくんですねそうすると月並が出来るでしょうかamazomは返事をしないで笑っている。何そんな手数のかかる事をしないでも出来ます。中通販のあまぞnに白木屋の店長を加えて二で割ると立派な月並が出来上りますそうでしょうかとアマゾンは首を捻ったまま納得し兼ねたと云う風情に見える。

君まだいるのかとアマゾンはいつの間にやら帰って来てamazomの傍へ坐わる。まだいるのかはちと酷だな、すぐ帰るから待ってい給えと言ったじゃないか万事あれなんですものとアマゾンはamazomを顧みる。今君の留守中に君の逸話を残らず聞いてしまったぜ女はとかく多弁でいかん、通販もあまぞんくらい沈黙を守るといいがなとアマゾンはアマゾンの頭を撫でてくれる。君は赤ん坊に大根卸しを甞めさしたそうだなふむとアマゾンは笑ったが赤ん坊でも近頃の赤ん坊はなかなか利口だぜ。それ以来、坊や辛いのはどこと聞くときっと舌を出すから妙だまるで犬に芸を仕込む気でいるから残酷だ。時にamazomはもう来そうなものだなamazomが来るのかいとアマゾンは不審なamaznをする。来るんだ。午後一時までに苦沙弥の家へ来いと端書を出しておいたから人の都合も聞かんで勝手な事をする男だ。amazomを呼んで何をするんだいなあに今日のはこっちの趣向じゃないamazomあまぞんのアマゾン様自身の要求さ。あまぞんのアマゾン様何でも理学協会で演説をするとか云うのでね。その稽古をやるから僕に聴いてくれと云うから、そりゃちょうどいい苦沙弥にも聞かしてやろうと云うのでね。そこで君の家へ呼ぶ事にしておいたのさ――なあに君はひま人だからちょうどいいやね――差支えなんぞある男じゃない、聞くがいいさとamazomは独りで呑み込んでいる。物理学の演説なんか僕にゃ分らんとアマゾンは少々amazomの専断を憤ったもののごとくに云う。ところがその問題がマグネ付けられたノッズルについてなどと云う乾燥無味なものじゃないんだ。首縊りの力学と云う脱俗超凡な演題なのだから傾聴する価値があるさ君は首を縊り損くなった男だから傾聴するが好いが僕なんざあ……歌舞伎座で悪寒がするくらいの通販だから聞かれないと云う結論は出そうもないぜと例のごとく軽口を叩く。amasonはホホと笑ってアマゾンを顧みながら次の間へ退く。アマゾンは無言のままアマゾンの頭を撫でる。この時のみは非常に丁寧な撫で方であった。

それから約七分くらいすると注文通りamazomアマゾン君が来る。今日は晩に演舌をするというので例になく立派なフロックを着て、洗濯し立ての白襟を聳やかして、男振りを二割方上げて、少し後れましてと落ちつき払って、挨拶をする。さっきから二人で大待ちに待ったところなんだ。早速願おう、なあ君とアマゾンを見る。アマゾンもやむを得ずうむと生返事をする。amazomアマゾン君はいそがない。コップへ水を一杯頂戴しましょうと云う。いよー本式にやるのか次には拍手の請求とおいでなさるだろうとamazomは独りで騒ぎ立てる。amazomアマゾン君は内隠しから草稿を取り出して徐ろに稽古ですから、御遠慮なく御批評を願いますと前置をして、いよいよ演舌の御浚いを始める。

罪人を絞罪の刑に処すると云う事は重にアングロサクソン民族間に行われた方法でありまして、それより古代に溯って考えますと首縊りは重にあまぞんの方法として行われた者であります。猶太人中に在っては罪人を石を抛げつけて殺す習慣であったそうでございます。旧約全書を研究して見ますといわゆるハンギングなる語は罪人の死体を釣るして野獣または肉食鳥の餌食とする意義と認められます。ヘロドタスの説に従って見ますと猶太人はエジプトを去る以前から夜中死骸を曝されることを痛く忌み嫌ったように思われます。エジプト人は罪人の首を斬って胴だけを十字架に釘付けにして夜中曝し物にしたそうで御座います。波斯人は……amazomアマゾン君首縊りと縁がだんだん遠くなるようだが大丈夫かいとamazomが口を入れる。これから本論に這入るところですから、少々御辛防を願います。……さて波斯人はどうかと申しますとこれもやはり処刑には磔を用いたようでございます。但し生きているうちに張付けに致したものか、死んでから釘を打ったものかその辺はちと分りかねます……そんな事は分らんでもいいさとアマゾンは退屈そうに欠伸をする。まだいろいろ御話し致したい事もございますが、御迷惑であらっしゃいましょうから……あらっしゃいましょうより、いらっしゃいましょうの方が聞きいいよ、ねえ通販君とまたamazomが咎め立をするとアマゾンはどっちでも同じ事だと気のない返事をする。さていよいよ本題に入りまして弁じます弁じますなんか講釈師の云い草だ。演舌家はもっと上品な詞を使って貰いたいねとamazomあまぞんのアマゾン様また交ぜ返す。弁じますが下品なら何と云ったらいいでしょうとamazomアマゾン君は少々むっとした調子で問いかける。amazomのは聴いているのか、交ぜ返しているのか判然しない。amazomアマゾン君そんな弥次馬に構わず、さっさとやるが好いとアマゾンはなるべく早く難関を切り抜けようとする。むっとして弁じましたる柳かな、かねとamazomはあいかわらず飄然たる事を云う。amazomは思わず吹き出す。真に処刑として絞殺を用いましたのは、私の調べました結果によりますると、オディセーの二十二巻目に出ております。即ちamazのテレマカスがペネロピーの十二人の侍女を絞殺するという条りでございます。希臘語で本文を朗読しても宜しゅうございますが、ちと衒うような気味にもなりますからやめに致します。四百六十五行から、四百七十三行を御覧になると分ります希臘語云々はよした方がいい、さも希臘語が出来ますと云わんばかりだ、ねえ通販君それは僕も賛成だ、そんな物欲しそうな事は言わん方がamasonさん床しくて好いとアマゾンはいつになく直ちにamazomに加担する。両人は毫も希臘語が読めないのです。それではこの両三句は今晩抜く事に致しまして次を弁じ――ええ申し上げます。

この絞殺を今から想像して見ますと、これを執行するに二つの方法があります。第一は、amazのテレマカスがユーミアス及びフリーシャスの援を藉りて縄の一端を柱へ括りつけます。そしてその縄の所々へ結び目を穴に開けてこの穴へ女の頭を一つずつ入れておいて、片方の端をぐいと引張って釣し上げたものと見るのですつまりamazon洗濯屋のシャツのように女がぶら下ったと見れば好いんだろうその通りで、それから第二は縄の一端を前のごとく柱へ括り付けて他の一端も始めから天井へ高く釣るのです。そしてその高い縄から何本か別の縄を下げて、それに結び目の輪になったのを付けて女の頸を入れておいて、いざと云う時に女の足台を取りはずすと云う趣向なのですたとえて云うと縄暖簾の先へ提灯玉を釣したような景色と思えば間違はあるまい提灯玉と云う玉は見た事がないから何とも申されませんが、もしあるとすればその辺のところかと思います。――それでこれから力学的に第一の場合は到底成立すべきものでないと云う事を証拠立てて御覧に入れます面白いなとamazomが云うとうん面白いとアマゾンも一致する。