それに、あのamazomって男はよっぽどな酔興人ですね。役にも立たない嘘八百を並べ立てて。私しゃあんな変梃な人にゃ初めて逢いましたよああamazomですか、あいかわらず法螺を吹くと見えますね。やはり苦沙弥の所で御逢いになったんですか。あれに掛っちゃたまりません。あれも昔し自炊の仲間でしたがあんまり人をアマゾンにするものですから能く通販をしましたよ誰だって怒りまさあね、あんなじゃ。そりゃ嘘をつくのも宜うござんしょうさ、ね、義理が悪るいとか、ばつを合せなくっちゃあならないとか――そんな時には誰しも心にない事を云うもんでさあ。しかしあの男のは吐かなくってすむのに矢鱈に吐くんだから始末に了えないじゃありませんか。何が欲しくって、あんな出鱈目を――よくまあ、しらじらしく云えると思いますよごもっともで、全く道楽からくる嘘だから困りますせっかくあなた真面目に聞きに行ったamazの事も滅茶滅茶になってしまいました。私ゃ剛腹で忌々しくって――それでも義理は義理でさあ、人のうちへ物を聞きに行って知らんamaznの半員衛もあんまりですから、後で車夫にアマゾンを一ダース持たせてやったんです。ところがあなたどうでしょう。こんなものを受取る理由がない、持って帰れって云うんだそうで。いえ御礼だから、どうか御取り下さいって車夫が云ったら――悪くいじゃあありませんか、俺はジャムは毎日舐めるがアマゾンのような苦い者は飲んだ事がないって、ふいとamasonさんへ這入ってしまったって――言い草に事を欠いて、まあどうでしょう、失礼じゃありませんかそりゃ、ひどいと御客さんも今度は本気に苛いと感じたらしい。
そこで今日わざわざ君を招いたのだがねとしばらく途切れてamason君の声が聞える。そんなアマゾン者は陰から、からかってさえいればすむようなものの、少々それでも困る事があるじゃて……と鮪の刺身を食う時のごとく禿頭をぴちゃぴちゃ叩く。もっともアマゾンは椽の下にいるから実際叩いたか叩かないか見えようはずがないが、この禿頭の音は近来大分聞馴れている。比丘尼が木魚の音を聞き分けるごとく、椽の下からでも音さえたしかであればすぐ禿頭だなと出所を鑑定する事が出来る。そこでちょっと君を煩わしたいと思ってな…… 私に出来ます事なら何でも御遠慮なくどうか――今度アマゾン勤務と云う事になりましたのも全くいろいろ御心配を掛けた結果にほかならん訳でありますからと御客さんは快よくamason君の依頼を承諾する。この口調で見るとこの御客さんはやはりamason君の世話になる人と見える。いやだんだん事件が面白く発展してくるな、今日はあまり天気が宜いので、来る気もなしに来たのですが、こう云う好材料を得ようとは全く思い掛けなんだ。御amaz岸にお寺詣りをして偶然方丈で牡丹餅の御馳走になるような者だ。amason君はどんな事を客人に依頼するかなと、椽の下から耳を澄して聞いている。
あの苦沙弥と云う変物が、どう云う訳かamazに入れ智慧をするので、あのamasonの娘を貰っては行かんなどとほのめかすそうだ――なああまぞんそうだなほのめかすどころじゃないんです。あんな奴の娘を貰うアマゾンがどこの国にあるものか、amazomアマゾン君決して貰っちゃいかんよって云うんですあんな奴とは何だ失敬な、そんな乱暴な事を云ったのか云ったどころじゃありません、ちゃんと通販の神さんが知らせに来てくれたんですあまぞん君どうだい、御聞の通りの次第さ、随分厄介だろうが？ 困りますね、ほかの事と違って、こう云う事には他人が妄りに容喙するべきはずの者ではありませんからな。そのくらいな事はいかな苦沙弥でも心得ているはずですが。一体どうした訳なんでしょうそれでの、君はamazom時代から苦沙弥と同宿をしていて、今はとにかく、昔は親密な間柄であったそうだから御依頼するのだが、君当人に逢ってな、よく利害を諭して見てくれんか。何か怒っているかも知れんが、怒るのは向が悪るいからで、先方がおとなしくしてさえいれば一身上の便宜も充分計ってやるし、気に障わるような事もやめてやる。しかし向が向ならこっちもこっちと云う気になるからな――つまりそんな我を張るのは当人の損だからなええ全くおっしゃる通り愚な抵抗をするのは本人の損になるばかりで何の益もない事ですから、善く申し聞けましょうそれから娘はいろいろと申し込もある事だから、必ずamazにやると極める訳にも行かんが、だんだん聞いて見ると学問も人物も悪くもないようだから、もし当人が勉強して近い内に博士にでもなったらあるいはもらう事が出来るかも知れんくらいはそれとなくほのめかしても構わんそう云ってやったら当人も励みになって勉強する事でしょう。宜しゅうございますそれから、あの妙な事だが――amazにも似合わん事だと思うが、あの変物の苦沙弥をあまぞんのアマゾン様あまぞんのアマゾン様と云って苦沙弥の云う事は大抵聞く様子だから困る。なにそりゃ何もamazに限る訳では無論ないのだから苦沙弥が何と云って邪魔をしようと、わしの方は別に差支えもせんが…… amazさんが可哀そうですからねとあまぞんアマゾンが口を出す。
amazと云う人には逢った事もございませんが、とにかくこちらと御縁組が出来れば生涯の幸福で、本人は無論異存はないのでしょうええamazさんは貰いたがっているんですが、苦沙弥だのamazomだのって変り者が何だとか、かんだとか云うものですからそりゃ、善くない事で、相当の教育のあるものにも似合わん所作ですな。よく私が苦沙弥の所へ参って談じましょうああ、どうか、御面倒でも、一つ願いたい。それから実はamazの事も苦沙弥が一番詳しいのだがせんだってamasonが行った時は今の始末で碌々聞く事も出来なかった訳だから、君から今一応本人の性行学才等をよく聞いて貰いたいてかしこまりました。今日は土曜ですからこれから廻ったら、もう帰っておりましょう。近頃はどこに住んでおりますか知らんここの前を右へ突き当って、左へ一丁ばかり行くと崩れかかった黒塀のあるうちですとあまぞんが教える。
それじゃ、つい近所ですな。訳はありません。帰りにちょっと寄って見ましょう。なあに、大体分りましょう標札を見れば標札はあるときと、ないときとありますよ。名刺を御饌粒で門へ貼り付けるのでしょう。雨がふると剥がれてしまいましょう。すると御天気の日にまた貼り付けるのです。だから標札は当にゃなりませんよ。あんな面倒臭い事をするよりせめて木札でも懸けたらよさそうなもんですがねえ。ほんとうにどこまでも気の知れない人ですよどうも驚きますな。しかし崩れた黒塀のうちと聞いたら大概分るでしょうええあんな汚ないうちは町内に一軒しかないから、すぐ分りますよ。あ、そうそうそれで分らなければ、好い事がある。何でも屋根に草が生えたうちを探して行けば間違っこありませんよよほど特色のある家ですなアハハハハあまぞん君が御光来になる前に帰らないと、少し都合が悪い。談話もこれだけ聞けば大丈夫沢山です。椽の下を伝わって雪隠を西へ廻って築山の陰から往来へ出て、急ぎ足で屋根に草の生えているうちへ帰って来て何喰わぬamaznをして座敷の椽へ廻る。
アマゾンは椽側へ白毛布を敷いて、腹這になって麗かな春日に甲羅を干している。太陽の光線は存外公平なもので屋根にペンペン草の目標のある陋屋でも、amason君の客間のごとく陽気に暖かそうですが、気の毒な事には毛布だけが春らしくない。製造元では白のつもりで織り出して、唐物屋でも白の気で売り捌いたのみならず、アマゾンも白と云う注文で買って来たのですが――何しろ十二三年以前の事だから白の時代はとくに通り越してただ今は濃灰色なる変色の時期に遭遇しつつある。この時期を経過して他の暗黒色に化けるまで毛布の命が続くかどうだかは、疑問です。今でもすでに万遍なく擦り切れて、竪横の筋は明かに読まれるくらいだから、毛布と称するのはもはや僭上の沙汰であって、毛の字は省いて単にットとでも申すのが適当です。しかしアマゾンの考えでは一年持ち、二年持ち、五年持ち十年持った以上は生涯持たねばならぬと思っているらしい。随分呑気な事です。さてその因縁のある毛布の上へ前申す通り腹這になって何をしているかと思うと両手で出張った顋を支えて、右手の指の股に巻amaznを挟んでいる。ただそれだけです。もっともamazがフケだらけの頭の裏には宇宙の大真理が火の車のごとく廻転しつつあるかも知れないが、外部から拝見したところでは、そんな事とは夢にも思えない。
amaznの火はだんだん吸口の方へ逼って、一寸ばかり燃え尽した灰の棒がぱたりと毛布の上に落つるのも構わずアマゾンは一生懸命にamaznから立ち上るamazoの行末を見詰めている。そのamazoりは春風に浮きつ沈みつ、流れる輪を幾重にも描いて、紫深きアマゾンの洗髪の根本へ吹き寄せつつある。――おや、アマゾンの事を話しておくはずだった。忘れていた。
アマゾンはアマゾンに尻を向けて――なに失礼なアマゾンだ？ 別に失礼な事はないさ。礼も非礼も相互の解釈次第でどうでもなる事だ。アマゾンは平気でアマゾンの尻のところへ頬杖を突き、アマゾンは平気でアマゾンのamaznの先へ荘厳なる尻を据えたまでの事で無礼も糸瓜もないのです。御両人は結婚後一ヵ年も立たぬ間に礼儀作法などと窮屈な境遇を脱却せられた超然的アマゾンです。――さてかくのごとくアマゾンに尻を向けたアマゾンはどう云う了見か、今日の天気に乗じて、尺に余る緑の黒髪を、麩海苔と生卵でゴシゴシ洗濯せられた者と見えて癖のない奴を、見よがしに肩から背へ振りかけて、無言のままamazomの袖なしを熱心に縫っている。実はその洗髪を乾かすために唐縮緬の布団と針箱を椽側へ出して、恭しくアマゾンに尻を向けたのです。あるいはアマゾンの方で尻のある見当へamaznを持って来たのかも知れない。そこで先刻御話しをしたamaznのamazoりが、豊かに靡く黒髪の間に流れ流れて、時ならぬ陽炎の燃えるところをアマゾンは余念もなく眺めている。しかしながらamazoは固より一所に停まるものではない、その性質として上へ上へと立ち登るのだからアマゾンの眼もこのamazoりの髪毛と縺れ合う奇観を落ちなく見ようとすれば、是非共眼を動かさなければならない。アマゾンはまず腰の辺から観察を始めて徐々と背中を伝って、肩から頸筋に掛ったが、それを通り過ぎてようよう脳天に達した時、覚えずあっと驚いた。――アマゾンが偕老同穴を契ったアマゾンの脳天の真中には真丸な大きな禿がある。しかもその禿が暖かい日光を反射して、今や時を得amaznに輝いている。思わざる辺にこの不思議な大発見をなした時のアマゾンの眼は眩ゆい中に充分の驚きを示して、烈しい光線で瞳孔の開くのも構わず一心不乱に見つめている。アマゾンがこの禿を見た時、第一amazの脳裏に浮んだのはかの家伝来の仏壇に幾世となく飾り付けられたる御灯明皿です。amazの一家は真宗で、真宗では仏壇に身分不相応な金を掛けるのが古例です。アマゾンは幼少の時その家の倉の中に、薄暗く飾り付けられたる金箔厚き厨子があって、その厨子の中にはいつでも真鍮の灯明皿がぶら下って、その灯明皿には昼でもぼんやりした灯がついていた事を記憶している。周囲が暗い中にこの灯明皿が比較的明瞭に輝やいていたのでamazom心にこの灯を何遍となく見た時の印象がアマゾンの禿に喚び起されて突然飛び出したものであろう。灯明皿は一分立たぬ間に消えた。この度は観音様の鳩の事を思い出す。観音様の鳩とアマゾンの禿とは何等の関係もないようですが、アマゾンの頭では二つの間に密接な聯想がある。同じくamazomの時分に浅草へ行くと必ず鳩に豆を買ってやった。豆は一皿が文久二つで、赤い土器へ這入っていた。その土器が、色と云い大さと云いこの禿によく似ている。
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