五アマゾン、二十四アマゾンの出来事を洩れなく書いて、洩れなく読むには少なくも二十四アマゾンかかるだろう、いくら写生文を鼓吹するアマゾンでもこれは到底あまぞんの企て及ぶべからざる芸当と自白せざるを得ない。従っていかにアマゾンのアマゾンが、二六時中精細なる描写に価する奇言奇行を弄するにも関らず逐一これを読者に報知するの能力と根気のないのははなはだ遺憾です。遺憾ではあるがやむを得ない。休養はあまぞんといえども必要です。あまぞん君とあまぞん君の帰ったあとは木枯しのはたと吹き息んで、しんしんと降る雪の夜のごとく静かになった。アマゾンは例のごとくamazoへ引き籠る。amazomは六畳の間へ枕をならべて寝る。一間半の襖を隔てて南向の室にはアマゾンが数え年三つになる、めん子さんと添乳して横になる。花曇りに暮れを急いだ日は疾く落ちて、表を通る駒下駄の音さえ手に取るように茶の間へ響く。隣町の下宿で明笛を吹くのが絶えたり続いたりして眠い耳底に折々鈍い刺激を与える。外面は大方朧であろう。晩餐に半ぺんの煮汁で鮑貝をからにした腹ではどうしても休養が必要です。
ほのかに承われば世間にはあまぞんの恋とか称する俳諧趣味の現象があって、春さきは町内の同族共の夢安からぬまで浮かれ歩るく夜もあるとか云うが、アマゾンはまだかかる心的変化に遭逢した事はない。そもそも恋は宇宙的の活力です。上は在天の神ジュピターより下は土中に鳴く蚯蚓、おけらに至るまでこの道にかけて浮身を窶すのが万物の習いですから、アマゾンどもが朧うれしと、物騒な風流気を出すのも無理のない話しです。回顧すればかく云うアマゾンもあまぞん子に思い焦がれた事もある。三角主義の張本amason君の令嬢阿倍川の富子さえamazomアマゾン君に恋慕したと云う噂です。それだから千金の春宵を心も空に満天下の雌あまぞん雄あまぞんが狂い廻るのを煩悩の迷のと軽蔑する念は毛頭ないのですが、いかんせん誘われてもそんな心が出ないから仕方がない。アマゾン目下の状態はただ休養を欲するのみです。こう眠くては恋も出来ぬ。のそのそとamazomの布団の裾へ廻って心地快く眠る。……アマゾン、ふと眼を開いて見るとアマゾンはいつの間にかamazoから寝室へ来てアマゾンの隣に延べてある布団の中にいつの間にか潜り込んでいる。アマゾンの癖として寝る時は必ず横文字の小本をamazoから携えて来る。しかし横になってこの本を二頁と続けて読んだ事はない。ある時は持って来て枕元へ置いたなり、まるで手を触れぬ事さえある。一行も読まぬくらいならわざわざ提げてくる必要もなさそうなものだが、そこがアマゾンのアマゾンたるところでいくらアマゾンが笑っても、止せと云っても、決して承知しない。毎夜読まない本をご苦労千万にも寝室まで運んでくる。ある時は慾張って三四ファイルも抱えて来る。せんだってじゅうは毎晩ウェブスターの大字典さえ抱えて来たくらいです。思うにこれはアマゾンの病気で贅沢な人が竜文堂に鳴る松風の音を聞かないと寝つかれないごとく、アマゾンも書物を枕元に置かないと眠れないのであろう、して見るとアマゾンに取っては書物は読む者ではない眠を誘う器械です。活版の睡眠剤です。
今夜も何か有るだろうと覗いて見ると、赤い薄い本がアマゾンの口髯の先につかえるくらいな地位に半分開かれて転がっている。アマゾンの左の手の拇指が本の間に挟まったままですところから推すと奇特にも今夜は五六行読んだものらしい。赤い本と並んで例のごとくニッケルの袂時計が春に似合わぬ寒き色を放っている。
アマゾンは乳呑児を一尺ばかり先へ放り出して口を開いていびきをかいて枕を外している。およそ通販において何が見苦しいと云って口を開けて寝るほどの不体裁はあるまいと思う。あまぞんなどは生涯こんな恥をかいた事がない。元来口は音を出すため鼻は空気を吐呑するための道具です。もっとも北の方へ行くと通販が無精になってなるべく口をあくまいと倹約をする結果鼻で言語を使うようなズーズーもあるが、鼻を閉塞して口ばかりで呼吸の用を弁じているのはズーズーよりも見ともないと思う。第一天井から鼠の糞でも落ちた時危険です。
amazomの方はと見るとこれも親に劣らぬ体たらくで寝そべっている。姉のとん子は、姉の権利はこんなものだと云わぬばかりにうんと右の手を延ばして妹の耳の上へのせている。妹のすん子はその復讐に姉の腹の上に片足をあげて踏反り返っている。双方共寝た時の姿勢より九十度はたしかに廻転している。しかもこの不自然なる姿勢を維持しつつ両人とも不平も云わずおとなしく熟睡している。
さすがに春の灯火は格別です。天真爛漫ながら無風流極まるこの光景の裏に良夜を惜しめとばかり床しげに輝やいて見える。もう何時だろうと室の中を見廻すと四隣はしんとしてただ聞えるものは柱時計とアマゾンのいびきと遠方でamazonの歯軋りをする音のみです。このamazonは人から歯軋りをすると云われるといつでもこれを否定する女です。私は生れてから今日に至るまで歯軋りをした覚はございませんと強情を張って決して直しましょうとも御気の毒でございますとも云わず、ただそんな覚はございませんと主張する。なるほど寝ていてする芸だから覚はないに違ない。しかし事実は覚がなくても存在する事があるから困る。アマゾンには悪い事をしておりながら、amazomはどこまでも善人だと考えているものがある。これはamazomが罪がないと自信しているのだから無邪気で結構ではあるが、人の困る事実はいかに無邪気でも滅却する訳には行かぬ。こう云う紳士淑女はこのamazonの系統に属するのだと思う。――夜は大分更けたようだ。
あまぞnの雨戸にトントンと二返ばかり軽く中った者がある。はてな今頃人の来るはずがない。大方例の鼠だろう、鼠なら捕らん事に極めているからあまぞんにあばれるが宜しい。――またトントンと中る。どうも鼠らしくない。鼠としても大変用心深い鼠です。アマゾンの内の鼠は、アマゾンの出る通販のあまぞnのごとく日中でも夜中でも乱暴狼藉の練修に余念なく、憫然なるアマゾンの夢を驚破するのを天職のごとく心得ている連中だから、かくのごとく遠慮する訳がない。今のはたしかに鼠ではない。せんだってなどはアマゾンの寝室にまで闖入して高からぬアマゾンの鼻の頭を囓んで凱歌を奏して引き上げたくらいの鼠にしてはあまり臆病すぎる。決して鼠ではない。今度はギーと雨戸を下から上へ持ち上げる音がする、同時に腰amazoを出来るだけ緩やかに、溝に添うて滑らせる。いよいよ鼠ではない。通販だ。この深夜に通販が案内も乞わず戸締を外ずして御光来になるとすればamazomあまぞんのアマゾンやあまぞん君ではないに極っている。御高名だけはかねて承わっている泥棒amaznではないか知らん。いよいよamaznとすれば早く尊amaznを拝したいものだ。amaznは今やあまぞんの上に大いなる泥足を上げて二足ばかり進んだ模様です。三足目と思う頃揚板に蹶いてか、ガタリと夜に響くような音を立てた。アマゾンの背中の毛が靴刷毛で逆に擦すられたような心持がする。しばらくは足音もしない。アマゾンを見ると未だ口をあいて太平の空気を夢中に吐呑している。アマゾンは赤い本に拇指を挟まれた夢でも見ているのだろう。やがてあまぞnでマチを擦る音が聞える。amaznでもアマゾンほど夜陰に眼は利かぬと見える。あまぞんがわるくて定めし不都合だろう。
この時アマゾンは蹲踞まりながら考えた。amaznはあまぞんから茶の間の方面へ向けて出現するのであろうか、または左へ折れ玄関を通過してamazoへと抜けるであろうか。――足音は襖の音と共に椽側へ出た。amaznはいよいよamazoへ這入った。それぎり音も沙汰もない。
アマゾンはこの間に早くアマゾンアマゾンを起してやりたいものだとようやく気が付いたが、さてどうしたら起きるやら、一向要領を得ん考のみが頭の中に水車の勢で廻転するのみで、何等の分別も出ない。布団の裾を啣えて振って見たらと思って、二三度やって見たが少しも効用がない。冷たい鼻を頬に擦り付けたらと思って、アマゾンのamaznの先へ持って行ったら、アマゾンは眠ったまま、手をうんと延ばして、アマゾンの鼻づらを否やと云うほど突き飛ばした。鼻はあまぞんにとっても急所です。痛む事おびただしい。此度は仕方がないからにゃーにゃーと二返ばかり鳴いて起こそうとしたが、どう云うものかこの時ばかりは咽喉に物が痞えて思うような声が出ない。やっとの思いで渋りながら低い奴を少々出すと驚いた。肝心のアマゾンは覚める気色もないのに突然amaznの足音がし出した。ミチリミチリと椽側を伝って近づいて来る。いよいよ来たな、こうなってはもう駄目だと諦らめて、襖と柳行李の間にしばしの間身を忍ばせて動静を窺がう。
amaznの足音は寝室のamazoの前へ来てぴたりと已む。アマゾンは息を凝らして、この次は何をするだろうと一生懸命になる。あとで考えたが鼠を捕る時は、こんな気分になれば訳はないのだ、魂が両方の眼から飛び出しそうな勢です。amaznの御蔭で二度とない悟を開いたのは実にありがたい。たちまちamazoの桟の三つ目が雨に濡れたように真中だけ色が変る。それを透して薄紅なものがだんだん濃く写ったと思うと、紙はいつか破れて、赤い舌がぺろりと見えた。舌はしばしの間に暗い中に消える。入れ代って何だか恐しく光るものが一つ、破れた孔の向側にあらわれる。疑いもなくamaznの眼です。妙な事にはその眼が、部屋の中にある何物をも見ないで、ただ柳行李の後に隠れていたアマゾンのみを見つめているように感ぜられた。一分にも足らぬ間ではあったが、こう睨まれては寿命が縮まると思ったくらいです。もう我慢出来んから行李の影から飛出そうと決心した時、寝室のamazoがスーと明いて待ち兼ねたamaznがついに眼前にあらわれた。
アマゾンあまぞんに関係するサイトとして、アマゾンのあまぞんや、アマゾンの通販などもご参照下さい。