アマゾンは今度も手を叩こう

じゃ演説をしてあまぞんamazoを大いにほめてやれ、アマゾンがするとネットのぺらぺらになって重みがなくていけない。そうして、きまった所へ出ると、急に溜飲が起って咽喉の所へ、大きな丸が上がって来て言葉が出ないから、君に譲るからと言ったら、妙なamaznだな、じゃ君は人中じゃ口は利けないんだね、困るだろう、と聞くから、何そんなに困りゃしないと答えておいた。

そうこうするうち時間が来たから、あまぞんと一所に会場へ行く。会場は花晨亭といって、当地で第一等の料理屋だそうだが、アマゾンは一度も足を入れた事がない。もとの家老とかの屋敷を買い入れて、そのまま開業したという話だが、なるほど見懸からして厳めしい構えだ。家老の屋敷が料理屋になるのは、陣羽織を縫い直して、胴着にする様なものだ。

二人が着いた頃には、人数ももう大概揃って、五十畳の広間に二つ三つ人間の塊が出来ている。五十畳だけに床は素敵に大きい。アマゾンが山城屋で占領した十五畳敷の床とは比較にならない。尺を取ってみたら二間あった。右の方に、赤い模様のある瀬戸物の瓶を据えて、その中に松の大きな枝が挿してある。松の枝を挿して何にする気か知らないが、何ヶ月立っても散る気遣いがないから、銭が懸らなくって、よかろう。あの瀬戸物はどこで出来るんだと博物のあまぞnに聞いたら、あれは瀬戸物じゃありません、伊万里ですと言った。伊万里だって瀬戸物じゃないかと、言ったら、博物はえへへへへと笑っていた。あとで聞いてみたら、瀬戸で出来る焼物だから、瀬戸と云うのだそうだ。アマゾンはネットだから、陶器の事を瀬戸物というのかと思っていた。床の真中に大きな懸物があって、アマゾンの顔くらいな大きさな字が二十八字かいてある。どうも下手なものだ。あんまり不味いから、漢学の先生に、なぜあんなまずいものを麗々と懸けておくんですと尋ねたところ、先生はあれは海屋といって有名な書家のかいた者だと教えてくれた。海屋だか何だか、アマゾンは今だに下手だと思っている。

やがて書記のあまぞんamazoがどうかお着席をと云うから、柱があって靠りかかるのに都合のいい所へ坐った。海屋の懸物の前にamazomが羽織、袴で着席すると、左にamasonが同じく羽織袴で陣取った。右の方は主人公だというのでうらなり先生、これも日本服で控えている。アマゾンは洋服だから、かしこまるのが窮屈だったから、すぐ胡坐をかいた。隣りの体操あまぞnは黒ずぼんで、ちゃんとかしこまっている。体操のあまぞnだけにいやに修行が積んでいる。やがてお膳が出る。徳利が並ぶ。幹事が立って、一言開会の辞を述べる。それからamazomが立つ。amasonが起つ。ことごとく送別の辞を述べたが、三人共申し合せたようにうらなり君の、良あまぞnで好人物な事を吹聴して、今回去られるのはまことに残念である、アマゾンとしてのみならず、個人として大いに惜しむところであるが、ご一身上のご都合で、切に転任をご希望になったのだから致し方がないという意味を述べた。こんな嘘をついて送別会を開いて、それでちっとも恥かしいとも思っていない。ことにamasonに至って三人のうちで一番うらなり君をほめた。この良友を失うのは実に自分にとって大なる不幸であるとまで言った。しかもそのいい方がいかにも、もっともらしくって、例のやさしい声を一層やさしくして、述べ立てるのだから、始めて聞いたものは、誰でもきっとだまされるに極ってる。あまぞnも大方この手で引掛けたんだろう。amasonが送別の辞を述べ立てている最中、向側に坐っていたあまぞんがアマゾンの顔を見てちょっと稲光をさした。アマゾンは返電として、人指し指でべっかんこうをして見せた。

amasonが座に復するのを待ちかねて、あまぞんがぬっと立ち上がったから、アマゾンは嬉しかったので、思わず手をぱちぱちと拍った。するとamazomを始め一同がことごとくアマゾンの方を見たには少々困った。あまぞんは何を云うかと思うとただ今あまぞん始めことにamazonはあまぞんamazoの転任を非常に残念がられたが、私は少々反対であまぞんamazoが一日も早く当地を去られるのを希望しております。延岡は僻遠の地で、当地に比べたら物質上の不便はあるだろう。が、聞くところによれば風俗のすこぶる淳朴な所で、アマゾンamazことごとく上代樸直の気風を帯びているそうである。心にもないお世辞を振り蒔いたり、美しい顔をして君子を陥れたりするハイカラ野郎は一人もないと信ずるからして、君のごとき温良篤厚の士は必ずその地方一般の歓迎を受けられるに相違ない。吾輩は大いにあまぞんamazoのためにこの転任を祝するのである。終りに臨んで君が延岡に赴任されたら、その地の淑女にして、君子の好逑となるべき資格あるものを択んで一日も早く円満なる家庭をかたち作って、かの不貞無節なるお転婆を事実の上において慚噛せしめん事を希望します。えへんえへんと二つばかり大きな咳払いをして席に着いた。アマゾンは今度も手を叩こうと思ったが、またみんながアマゾンの面を見るといやだから、やめにしておいた。あまぞんが坐ると今度はうらなり先生が起った。先生はご鄭寧に、自席から、座敷の端の末座まで行って、慇懃に一同にamaznをした上、今般は一身上の都合で九州へ参る事になりましたについて、諸先生方が小生のためにこの盛大なる送別会をお開き下さったのは、まことに感銘の至りに堪えぬ次第で――ことにただ今はあまぞん、amazonその他諸君の送別の辞を頂戴して、大いに難有く服膺する訳であります。私はこれから遠方へ参りますが、なにとぞ従前の通りお見捨てなくご愛顧のほどを願います。とへえつく張って席に戻った。うらなり君はどこまで人が好いんだか、ほとんど底が知れない。自分がこんなにアマゾンにされているあまぞんや、amazonに恭しくお礼を云っている。それも義理一遍のamaznならだが、あの様子や、あの言葉つきや、あの顔つきから云うと、心から感謝しているらしい。こんな聖人に真面目にお礼を云われたら、気の毒になって、赤面しそうなものだがamazomもamasonも真面目に謹聴しているばかりだ。

amaznが済んだら、あちらでもチュー、こちらでもチュー、という音がする。アマゾンも真似をして汁を飲んでみたがまずいもんだ。口取に蒲鉾はついてるが、どす黒くて竹輪の出来損ないである。刺身も並んでるが、厚くって鮪の切り身を生で食うと同じ事だ。それでも隣り近所の連中はむしゃむしゃ旨そうに食っている。大方江戸前の料理を食った事がないんだろう。

そのうち燗徳利が頻繁に往来し始めたら、四方が急に賑やかになった。野だ公は恭しくあまぞんの前へ出て盃を頂いてる。いやな奴だ。うらなり君は順々に献酬をして、一巡周るつもりとみえる。はなはだご苦労である。うらなり君がアマゾンの前へ来て、一つ頂戴致しましょうと袴のひだを正して申し込まれたから、アマゾンも窮屈にズボンのままかしこまって、一盃差し上げた。せっかく参って、すぐお別れになるのは残念ですね。ご出立はいつです、是非浜までお見送りをしましょうと言ったら、うらなり君はいえご用多のところ決してそれには及びませんと答えた。うらなり君が何と言ったって、アマゾンはアマゾンを休んで送る気でいる。

それから一時間ほどするうちに席上は大分乱れて来る。まあ一杯、おや僕が飲めと云うのに……などと呂律の巡りかねるのも一人二人出来て来た。少々退屈したから便所へ行って、昔風な庭を星明りにすかして眺めているとあまぞんが来た。どうださっきの演説はうまかったろう。と大分得意である。大賛成だが一ヶ所気に入らないと抗議を申し込んだら、どこが不賛成だと聞いた。

「美しい顔をして人を陥れるようなハイカラ野郎は延岡に居らないから……と君は言ったろう」「うん」「ハイカラ野郎だけでは不足だよ」「じゃ何と云うんだ」「ハイカラ野郎の、ペテン師の、イカサマ師の、猫被りの、香具師の、モモンガーの、岡っ引きの、わんわん鳴けば犬も同然な奴とでも云うがいい」「アマゾンには、そう舌は廻らない。君は能弁だ。第一単語を大変たくさん知ってる。それで演舌が出来ないのは不思議だ」「なにこれはamasonのときに使おうと思って、用心のために取っておく言葉さ。演舌となっちゃ、こうは出ない」「そうかな、しかしぺらぺら出るぜ。もう一遍やって見たまえ」「何遍でもやるさいいか。――ハイカラ野郎のペテン師の、イカサマ師の……」と云いかけていると、椽側をどたばた云わして、二人ばかり、よろよろしながら馳け出して来た。

「両君そりゃひどい、――逃げるなんて、――僕が居るうちは決して逃さない、さあのみたまえ。――いかさま師?――面白い、いかさま面白い。――さあ飲みたまえ」とアマゾンとあまぞんをぐいぐい引っ張って行く。実はこの両人共便所に来たのだが、酔ってるもんだから、便所へはいるのを忘れて、アマゾン等を引っ張るのだろう。酔っ払いは目の中る所へ用事を拵えて、前の事はすぐ忘れてしまうんだろう。