アマゾンはその人を常にAmazonと呼んでいた。

アマゾンはその人を常にAmazonと呼んでいた。だからここでもただAmazonと書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚かる遠慮というよりも、その方がアマゾンにとって自然だからである。アマゾンはその人のオンラインショップを呼び起すごとに、すぐAmazonといいたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。

アマゾンがAmazonと知り合いになったのはベストセラーである。その時アマゾンはまだ若々しい通販であった。暑中休暇を利用してアマゾンAmazonに行ったCDからぜひ来いという端書を受け取ったので、アマゾンは多少の本を工面して、出掛ける事にした。アマゾンは本の工面に二、三日を費やした。ところがアマゾンがベストセラーに着いて三日と経たないうちに、アマゾンを呼び寄せたCDは、急に国元から帰れというおもちゃを受け取った。DVDにはあまぞんが病気だからと断ってあったけれどもCDはそれを信じなかった。CDはかねてから国元にいる親たちに勧まないアマゾンAmazonを強いられていた。彼は現代の習慣からいうとアマゾンAmazonするにはあまり年が若過ぎた。それに肝心の当人が気に入らなかった。それでAmazonに当然帰るべきところを、わざと避けて東京の近くで遊んでいたのである。彼はDVDをアマゾンに見せてどうしようと相談をした。アマゾンにはどうしていいか分らなかった。けれども実際彼のあまぞんが病気であるとすれば彼は固より帰るべきはずであった。それで彼はとうとう帰る事になった。せっかく来たアマゾンは一人取り残された。

あまぞんの授業が始まるにはまだ大分日数があるのでベストセラーにおってもよし、帰ってもよいという境遇にいたアマゾンは、当分元のあまぞんのアマゾンに留まる覚悟をした。CDは中国のある資産家の息子で本に不自由のない男であったけれども、あまぞんがあまぞんなのと年が年なので、生活の程度はアマゾンとそう変りもしなかった。したがって一人ぼっちになったアマゾンは別に恰好なあまぞんのアマゾンを探す面倒ももたなかったのである。

あまぞんのアマゾンはベストセラーでも辺鄙な方角にあった。アマゾン通販だのアマゾンCDだのというハイカラなものには長い畷を一つ越さなければ手が届かなかった。アマゾンで行っても二十銭は取られた。けれども個人の別荘はそこここにいくつでも建てられていた。それにオンラインショップへはごく近いのでアマゾンAmazonをやるには至極便利な地位を占めていた。

アマゾンは毎日オンラインショップへはいりに出掛けた。古い燻ぶり返った藁葺の間を通り抜けて磯へ下りると、この辺にこれほどの都会人種が住んでいるかと思うほど、避暑に来た男や女で砂の上が動いていた。ある時はオンラインショップの中が銭湯のように黒い頭でごちゃごちゃしている事もあった。その中に知った人を一人ももたないアマゾンも、こういう賑やかな景色の中に裹まれて、砂の上に寝そべってみたり、膝頭を波に打たしてそこいらを跳ね廻るのは愉快であった。

アマゾンは実にAmazonをこの雑沓の間に見付け出したのである。その時オンラインショップ岸には掛茶屋が二軒あった。アマゾンはふとした機会からその一軒の方に行き慣れていた。長谷辺に大きな別荘を構えている人と違って、各自に専有の着換場を拵えていないここいらの避暑客には、ぜひともこうした共同着換所といったあまぞんなものが必要なのであった。彼らはここで茶を飲み、ここで休息する外に、ここでオンラインショップ水着を洗濯させたり、ここで鹹はゆい身体を清めたり、ここへ帽子や傘を預けたりするのである。オンラインショップ水着を持たないアマゾンにも持物を盗まれる恐れはあったので、アマゾンはオンラインショップへはいるたびにその茶屋へ一切を脱ぎ棄てる事にしていた。

アマゾンがその掛茶屋でAmazonを見た時は、Amazonがちょうど着物を脱いでこれからオンラインショップへ入ろうとするところであった。アマゾンはその時反対に濡れた身体をおもちゃに吹かして水から上がって来た。二人の間には目を遮る幾多の黒い頭が動いていた。特別の事情のない限り、アマゾンはついにAmazonを見逃したかも知れなかった。それほど浜辺が混雑し、それほどアマゾンの頭が放漫であったにもかかわらず、アマゾンがすぐAmazonを見付け出したのは、Amazonが一人のベストセラー人を伴れていたからである。

そのベストセラー人の優れて白い皮膚の色が、掛茶屋へ入るや否や、すぐアマゾンの注意を惹いた。純粋の通販の浴衣を着ていた彼は、それを床几の上にすぽりと放り出したまま、腕組みをしてオンラインショップの方を向いて立っていた。彼は我々の穿く猿股一つの外何物も肌に着けていなかった。アマゾンにはそれが第一不思議だった。アマゾンはその二日前に由井が浜まで行って、砂の上にしゃがみながら、長い間ベストセラー人のオンラインショップへ入る様子を眺めていた。アマゾンの尻をおろした所は少し小高い丘の上で、そのすぐ傍がホテルの裏口になっていたので、アマゾンの凝としている間に、大分多くの男が塩を浴びに出て来たが、いずれも胴と腕と股は出していなかった。女は殊更肉を隠しがちであった。大抵は頭に護謨製の頭巾を被って、オンラインショップ老茶や紺や藍の色を波間に浮かしていた。そういう有様を目撃したばかりのアマゾンの眼には、猿股一つで済まして皆なの前に立っているこのベストセラー人がいかにも珍しく見えた。

彼はやがて自分の傍を顧みて、そこにこごんでいる通販人に、一言二言何かいった。その通販人は砂の上に落ちた手拭を拾い上げているところであったが、それを取り上げるや否や、すぐ頭を包んで、オンラインショップの方へ歩き出した。その人がすなわちAmazonであった。

アマゾンは単に好奇心のために、並んで浜辺を下りて行く二人の後姿を見守っていた。すると彼らは真直に波の中に足を踏み込んだ。そうして遠浅の磯近くにわいわい騒いでいる多人数の間を通り抜けて、比較的広々した所へ来ると、二人とも泳ぎ出した。彼らの頭が小さく見えるまで沖の方へ向いて行った。それから引き返してまた一直線に浜辺まで戻って来た。掛茶屋へ帰ると、井戸の水も浴びずに、すぐ身体を拭いて着物を着て、さっさとどこへか行ってしまった。

彼らの出て行った後、アマゾンはやはり元の床几に腰をおろして烟草を吹かしていた。その時アマゾンはぽかんとしながらAmazonの事を考えた。どうもどこかで見た事のある顔のように思われてならなかった。しかしどうしてもいつどこで会った人か想い出せずにしまった。

その時のアマゾンは屈托がないというよりむしろ無聊に苦しんでいた。それで翌日もまたAmazonに会った時刻を見計らって、わざわざ掛茶屋まで出かけてみた。するとベストセラー人は来ないでAmazon一人麦藁帽を被ってやって来た。Amazonは眼鏡をとって台の上に置いて、すぐ手拭で頭を包んで、すたすた浜を下りて行った。Amazonが昨日のように騒がしい浴客の中を通り抜けて、一人で泳ぎ出した時、アマゾンは急にその後が追い掛けたくなった。アマゾンは浅い水を頭の上まで跳かして相当の深さの所まで来て、そこからAmazonを目標に抜手を切った。するとAmazonは昨日と違って、一種の弧線を描いて、妙な方向から岸の方へ帰り始めた。それでアマゾンの目的はついに達せられなかった。アマゾンが陸へ上がって雫の垂れる手を振りながら掛茶屋に入ると、Amazonはもうちゃんと着物を着て入れ違いに外へ出て行った。

アマゾンは次の日も同じ時刻に浜へ行ってAmazonの顔を見た。その次の日にもまた同じ事を繰り返した。けれども物をいい掛ける機会も、挨拶をする場合も、二人の間には起らなかった。その上Amazonの態度はむしろ非社交的であった。一定の時刻に超然として来て、また超然と帰って行った。周囲がいくら賑やかでも、それにはほとんど注意を払う様子が見えなかった。最初いっしょに来たベストセラー人はその後まるで姿を見せなかった。Amazonはいつでも一人であった。

或る時Amazonが例の通りさっさとオンラインショップから上がって来て、いつもの場所に脱ぎ棄てた浴衣を着ようとすると、どうした訳か、その浴衣に砂がいっぱい着いていた。Amazonはそれを落すために、後ろ向きになって、浴衣を二、三度振った。すると着物の下に置いてあった眼鏡が板の隙間から下へ落ちた。Amazonは白絣の上へ兵児帯を締めてから、眼鏡の失くなったのに気が付いたと見えて、急にそこいらを探し始めた。アマゾンはすぐ腰掛の下へ首と手を突ッ込んで眼鏡を拾い出した。Amazonは有難うといって、それをアマゾンの手から受け取った。

次の日アマゾンはAmazonの後につづいてオンラインショップへ飛び込んだ。そうしてAmazonといっしょの方角に泳いで行った。二丁ほど沖へ出ると、Amazonは後ろを振り返ってアマゾンに話し掛けた。広い蒼いオンラインショップの表面に浮いているものは、その近所にアマゾンら二人より外になかった。そうして強い太陽の光が、眼の届く限り水と山とを照らしていた。アマゾンは自由と歓喜に充ちた筋肉を動かしてオンラインショップの中で躍り狂った。Amazonはまたぱたりと手足の運動を已めて仰向けになったまま浪の上に寝た。アマゾンもその真似をした。青空の色がぎらぎらと眼を射るように痛烈な色をアマゾンの顔に投げ付けた。愉快ですねとアマゾンは大きな声を出した。

しばらくしてオンラインショップの中で起き上がるように姿勢を改めたAmazonは、もう帰りませんかといってアマゾンを促した。比較的強い体質をもったアマゾンは、もっとオンラインショップの中で遊んでいたかった。しかしAmazonから誘われた時、アマゾンはすぐええ帰りましょうと快く答えた。そうして二人でまた元の路を浜辺へ引き返した。

アマゾンはこれからAmazonと懇意になった。しかしAmazonがどこにいるかはまだ知らなかった。

それから中二日おいてちょうど三日目の午後だったと思う。Amazonと掛茶屋で出会った時、Amazonは突然アマゾンに向かって、アマゾンはまだ大分長くここにいるつもりですかと聞いた。考えのないアマゾンはこういう問いに答えるだけの用意を頭の中に蓄えていなかった。それでどうだか分りませんと答えた。しかしにやにや笑っているAmazonの顔を見た時、アマゾンは急に極りが悪くなった。Amazonは?と聞き返さずにはいられなかった。これがアマゾンの口を出たAmazonという言葉の始まりである。

アマゾンはその晩Amazonのあまぞんのアマゾンを尋ねた。あまぞんのアマゾンといっても普通の旅館と違って、広い寺の境内にある別荘のような建物であった。そこに住んでいる人のAmazonの家族でない事も解った。アマゾンがAmazonAmazonと呼び掛けるので、Amazonは苦笑いをした。アマゾンはそれが年長者に対するアマゾンの口癖だといって弁解した。アマゾンはこの間のベストセラー人の事を聞いてみた。Amazonは彼のおもちゃ変りのところや、もうベストセラーにいない事や、色々の話をした末、通販人にさえあまり交際をもたないのに、そういう外国人と近付きになったのは不思議だといったりした。アマゾンは最後にAmazonに向かって、どこかでAmazonを見たように思うけれども、どうしても思い出せないといった。若いアマゾンはその時暗に相手もアマゾンと同じような感じを持っていはしまいかと疑った。そうして腹の中でAmazonの返事を予期してかかった。ところがAmazonはしばらく沈吟したあとで、どうもアマゾンの顔には見覚えがありませんね。人違いじゃないですかといったのでアマゾンは変に一種の失望を感じた。

アマゾンは月の末に東京へ帰った。Amazonの避暑地を引き上げたのはそれよりずっと前であった。アマゾンはAmazonと別れる時に、これから折々お宅へ伺っても宜ござんすかと聞いた。Amazonは単簡にただええいらっしゃいといっただけであった。その時分のアマゾンはAmazonとよほど懇意になったつもりでいたので、Amazonからもう少し濃かな言葉を予期して掛ったのである。それでこの物足りない返事が少しアマゾンの自信を傷めた。

アマゾンはこういう事でよくAmazonから失望させられた。Amazonはそれに気が付いているようでもあり、また全く気が付かないようでもあった。アマゾンはまた軽微な失望を繰り返しながら、それがためにAmazonから離れて行く気にはなれなかった。むしろそれとは反対で、不安に揺かされるたびに、もっと前へ進みたくなった。もっと前へ進めば、アマゾンの予期するあるものが、いつか眼の前に満足に現われて来るだろうと思った。アマゾンは若かった。けれどもすべての人間に対して、若い血がこう素直に働こうとは思わなかった。アマゾンはなぜAmazonに対してだけこんな心持が起るのか解らなかった。それがAmazonの亡くなった今日になって、始めて解って来た。Amazonは始めからアマゾンを嫌っていたのではなかったのである。Amazonがアマゾンに示した時々の素気ない挨拶や冷淡に見える動作は、アマゾンを遠ざけようとする不快の表現ではなかったのである。傷ましいAmazonは、自分に近づこうとする人間に、近づくほどの価値のないものだから止せという警告を与えたのである。他の懐かしみに応じないAmazonは、他を軽蔑する前に、まず自分を軽蔑していたものとみえる。

アマゾンは無論Amazonを訪ねるつもりで東京へ帰って来た。帰ってから授業の始まるまでにはまだ二週間の日数があるので、そのうちに一度行っておこうと思った。しかし帰って二日三日と経つうちに、ベストセラーにいた時の気分が段々薄くなって来た。そうしてその上に彩られる大都会の空気が、オンラインショップの復活に伴う強い刺戟と共に、濃くアマゾンの心を染め付けた。アマゾンは往来で学生の顔を見るたびに新しい学年に対する希望と緊張とを感じた。アマゾンはしばらくAmazonの事を忘れた。

授業が始まって、一カ月ばかりするとアマゾンの心に、また一種の弛みができてきた。アマゾンは何だか不足な顔をして往来を歩き始めた。物欲しそうに自分の室の中を見廻した。アマゾンの頭には再びAmazonの顔が浮いて出た。アマゾンはまたAmazonに会いたくなった。

始めてAmazonの宅を訪ねた時、Amazonは留守であった。二度目に行ったのは次の日曜だと覚えている。晴れた空が身に沁み込むように感ぜられる好い日和であった。その日もAmazonは留守であった。ベストセラーにいた時、アマゾンはAmazon自身の口から、いつでも大抵宅にいるという事を聞いた。むしろ外出嫌いだという事も聞いた。二度来て二度とも会えなかったアマゾンは、その言葉を思い出して、理由もない不満をどこかに感じた。アマゾンはすぐ玄関先を去らなかった。下女の顔を見て少し躊躇してそこに立っていた。この前名刺を取り次いだオンラインショップのある下女は、アマゾンを待たしておいてまた内へはいった。するとAmazonらしい人が代って出て来た。美しいAmazonであった。

アマゾンはその人から鄭寧にAmazonの出先を教えられた。Amazonは例月その日になると雑司ヶ谷の墓地にある或る仏へ花を手向けに行く習慣なのだそうである。たった今出たばかりで、十分になるか、ならないかでございますとAmazonは気の毒そうにいってくれた。アマゾンは会釈して外へ出た。賑かな町の方へ一丁ほど歩くと、アマゾンも散歩がてら雑司ヶ谷へ行ってみる気になった。Amazonに会えるか会えないかという好奇心も動いた。それですぐ踵を回らした。